伝えたい
伝えたいことがあって走っていたはずなのに、忘れてしまった。今はただ無事だけを祈って、溶けた皮膚や瓦礫につまづきそうになりながら走っている。彼が混じっているかもしれなかった。原型がなくなってかすかな悲鳴を上げる人々の中に。俺の脚はちゃんとある。だってこうして走れている。
ドサッ。
あっ。呆気なく転んでしまった。立ち上がろうとしても動けない。当然だった。本当はわかっていた。俺の脚は半分なくなっていて、走れている方が不思議だってこと。
『やまちゃん。』
俺を呼ぶ声がした、気がした。数時間前に聞いた声。俺は血まみれになりながら瓦礫をかき分けた。
ただ、ごめんって言いたかった。俺が悪かったって、それだけで良かった。
「ごめん、ごめん、なさい……。」
グチャグチャの肉塊を抱き寄せて泣いた。
2/12/2024, 11:58:40 AM