土曜日の夜

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「子供の頃はさ、俺、何にでもなれると思ってたんだ。恐竜にでもヒーローにでも宇宙飛行士にでも。本当になんにでもなれると、そう思ってたんだ。
いつからかそれは無理だろうなってなんとなく気付いたんだよな。恐竜にはなれるわけないし、ヒーローなんてどこにもいない。宇宙飛行士だってなるのはかなり難関だ。それを知るたびに一つずつ諦めてったんだ。
サッカー選手だって、医者だって、歌手だって。
勿論、なれる人はいるけど、相当な努力をしなきゃいけない。努力をしたってなれない人は沢山いる。
子供の頃はあんなに無敵だったのに、大人になるたびにどうして無力になるんだろうな」

「子供の頃、本当になりたかったものってあるの?」

「色々あるけど、多分『なにか』になりたかったんだよ。誰かの記憶や記録や心に残るような『なにか』に。それがかなり難しいと知ったのは最近だけど」

「あら、それならもう叶えてるじゃない?」

思いもよらない言葉に彼は彼女を見つめた。彼女はにっこりと微笑みながら愛おしそうな眼差しで彼を見つめ返す。

「その『誰か』は私じゃだめなの?」

6/23/2024, 11:24:54 AM