いろ

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【懐かしく思うこと】

 忘れてほしいと君は言った。君と出会った日の青空も、君と過ごした日々の煌めきも、そうして最後に微笑んだ今の君の姿すらも。全て忘れて、生きてほしいと。
 秋が深まり紅葉の舞う季節になると思い出す。庭の池を一面の紅葉が埋め尽くした日、綺麗だねと呟いて息を引き取った君の白皙を。
(ずるいなぁ)
 君と重ねた記憶を、忘れたくなんてないのに。ずっとずっと愛でていたいのに。君が願うから私は、思い出してしまった君の姿を記憶の奥底へと封じ込めるしかない。懐かしく思うことすら許してくれないなんて、本当にずるい人だ。
(いつかまた会えたなら、死ぬほど文句を言ってやるんだから)
 だからこの憂愁は、今は忘れ去ってあげよう。もう一度会うその時まで、大切にとっておいてやる。それが私の、我儘で傲慢な君へ送るたった一つの抵抗だ。
 君の口の端から溢れた血のように赤い紅葉を一枚拾い上げ、手の中でくしゃりとそれを潰した。

10/30/2023, 9:56:41 PM