その女性はいつも雨の日にやって来た。
ショートボブの黒髪にあどけなさを残した女の子。窓際の席に腰を下ろすと、いつも決まってカプチーノを注文する。バッグから文庫本を取り出し、雨に溶け込んだように読書をする。客の少ない店内で、ページをめくる小さな手が麗しかった。
カプチーノがお好きなんですか、と尋ねたのはいつだっただろうか。雨の日はカプチーノが飲みたくなるんです、と言った彼女は、と歌った方がいるんです、と付け足して微笑んだ。大人びているようで、無邪気なようで、不思議な魅力のある人だと思ったものだ。
七月になった。いよいよ夏の気配を感じる。職場である喫茶店への道を歩きながら、そういえば紫陽花を見なくなったな、と考えた。
6/13/2023, 1:46:35 PM