『逃れられない呪縛』
彼女のことを忘られないまま月日が経った。
忘却の彼方、脳内に陳列された棚の最奥にでもしまって置くべき記憶。
それなのに、何回も何回も彼女は俺の脳裏から沸々と湧き出てくる。
「きりこおおおおおおおおおお!!」
俺は叫んだ。
まだ朝を迎えたばかりの時間帯。閑散とした公園の中、俺は誰かの目線を感じて振り返る。
「きりっ……!」
「桐山だよ」
自動販売機の裏から現れたのは桐山だった。俺は切子ではないとわかって落胆して。腹いせに桐山のLINEをブロックした。
「なんだ桐山か」
「僕じゃ不満? 不満だよね。ごめん」
なんだこいつ。自己完結した挙げ句、急に謝ってくるし。きも。
「桐山、何しに来たんだよ。こんな朝から」
「それは神宮寺くんも同じだろ」
神宮寺という自己肯定感爆上げの苗字を俺は気に入っており、その名で呼んでくれる桐山への好感度が少し蘇ったので。
俺は返答がわりにLINEのブロック画面を本人にみせる。
すると、
「ハハハ。相互ブロックのお誘いかい? あいにく僕は忙しくてね」
そんな意味のわからないことを言いながら、桐山はジャングルジムで遊び出した。
無駄にジャングルジムのまわりを2周半してから中央に入った後、一気に頂上まで登って上半身を投げ出した。
両腕を高らに広げながら、彼はいう。
「凄い! 凄いよ神宮寺くん! 素晴らしい景色だ……」
しばらく桐山は感慨に耽っていた。
そんな桐山を俺はどこか羨ましく感じてしまい、何故だかどんよりとした気持ちが軽くなっていることに気づく。
ただ、桐山への畏怖と切子への未練という、ひどく混沌とした感情もはらんでいた。
いつかこの逃れられない呪縛を桐山が溶かしてくれるのではないかと期待してから、なんかやだなと思い身震いした。
5/23/2023, 2:48:53 PM