花とコトリ

Open App

「明日世界が終わるなら……」

もしも明日、この世界が静かに幕を閉じるなら。

特別なことは何もしない。ただ、いつものように豆を挽き、深い苦みのコーヒーを淹れるだろう。湯気の中に立ち上がる香りを、最後の一粒まで記憶に刻むために。

窓の外では、驚くほど大きな満月がすべてを許すように輝いている。その光を背中に受けて、足元ではクロが小さく欠伸をした。何も知らないお前の、柔らかい毛並みの温かさ。それだけが、この世界で私が手に入れた一番確かな真実だった。

「おやすみ、クロ。また明日」

嘘をつく私を、月が静かに見守っている。
さよならの代わりに、もう一度だけ、その温もりを抱きしめた。

5/6/2026, 9:55:36 PM