鶴森はり

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 やまないのね。
 女の呟きが部屋に転がる。いいや、やんでいるとも、と答えた。凪いだ女の瞳は海の底のようで、恐ろしい。たおやかに微笑む薔薇の唇が、女の強さをたたえていて、怖い。
「かわいそうなひと」
 清廉な、美しい声で憐れみを与えた女。滑らかでか細い人差し指が、伸びてきて頬を撫でた。ぬぐうような仕草だが濡れてはいない。
 それでも女はやめない。何度も何度も恍惚とした表情で、頬を愛撫する。撫でて爪を立ててひっかいて、顎の輪郭を確かめるようになぞった。
「あめをやめないで」
 拙く、熱を孕んだ懇願がぶつけられる。
「やんだら、あいせない」
 唇が頬を食む。舌をちろりとのぞかせて、猫のようになめる。
 あめは、もう、やめられない。

5/25/2023, 3:29:38 PM