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然程、厳重に隠していたわけではなかった。
かといって、明け透けにしていたわけでもない。
ベッドの側にはカラになった小さな段ボール。
中身は全て取り出され、ベッドの上にきれいに並べられていた。
DVD数枚に、漫画に文庫本、写真集。
全て年齢指定が入った性的エンターテインメント作品……つまるところエロビデオやエロ本だ。
彼女の手によって唐突に暴露された作品数は、10作品にも満たない。
収納スペースの奥のほうで封印してたはずなのに、よくもまあ見つけたものだ。
「なんで?」
「え?」
俺を責め立てるわけでもなく、AVやエロ本の処分を求めているわけでもないらしい。
ただ、困惑した表情で俺を見つめた。
「だって、れーじくんが好きなのは巨乳でしょ?」
は?
純度MAXで軽く放たれた言葉に耳を疑う。
「ケツは小悪魔、パイはロマン、合法ロリとセンシティブみたいな女が大好きだよね?」
「なんすかそれ。今の俺は立てば最高、座ればかわいい、歩く姿はマジ天使なあなたが大好きです愛しています」
いやいやいやいやいやいやいやいやいや!?
仕方がないだろっ!
思春期の頃は彼女を認知していなかったし!?
認知したらしたで、当時の彼女はそれはそれはもうどうにもならないくらい素敵な!?
俺から見てもめちゃくちゃ頼りがいありそうないい男を捕まえていたし!?
一目惚れした瞬間、想いも告げられずに振られたのだ。
恋慕が拗れるのもしかたがないだろう。
「……というよりなんです? 小悪魔な尻って……」
「歩き方がエロい人。ぷりんぷりん張りがあって揉み応えのあるケツした女」
「あー……」
クッッッソ!?
なんっっっも言えねえっ!
完全に思春期時代の俺の嗜好が把握されていた。
「なのにこれ、全部、清楚系でおっぱいぺたんこな女優ばっかりじゃん」
「それが?」
「え?」
「好みの女性が変わっただけで、別に矯正したつもりはないので、ご心配には及びませんよ」
とはいえ、解釈違いも甚しくて彼女に似た女優のDVDを集めるのはすぐにやめた。
その代わりに始めたのが推し活である。
グッズを少しずつ増やして、想像を膨らませた。
もちろん俺の解釈なんかよりも公式が最大手、もはや公式が病気。
眩しすぎて目が焼けた。
視力がどんどん落ちていく。
どんな作り物よりも目の前にいる彼女自身が最高であり、唯一無二である。
「あなたと出会ってから、俺の世界は一新されたんです」
「でもさ、体に痕残されるのは今でも嫌いでしょ?」
「痕って……」
なにが「でも」なんだろう。
そもそも彼女はなんの確認をしているのだ。
あの日以来、俺の好みの女性といったら彼女以外あり得ないというのに。
「むしろあなたになら大歓迎なんですが?」
キスマークのひとつ、まともにつけられないのは彼女のほうだ。
かわいすぎて本当に意味がわからない。
何度トライしてもうまく痕をつけられなくて、不貞腐れて早々に諦めたのは彼女のほうだ。
意外と不器用でたまらなくかわいくて愛おしい。
「待って。違う。私の話はしてない」
ポポポッと顔を赤らめて慌て始める彼女を、少しずつ追い詰めていく。
「好きな女性の話ですよね? 俺の好きな人はあなたです」
「違う。れーじくんはでっかいおっぱいが好きって話だった」
「揉むならあなたのおっぱいを揉みたいです」
彼女は自分の胸を確認したあと、眉を寄せて唇を尖らせた。
「……喧嘩売ってる?」
「なんでですか。控えめなだけでちゃんと膨らんでるじゃないですか。揉めますよ? 揉みましょうか?」
やばい。
本当にメチャメチャに触りたくなってしまって、彼女を抱きしめた。
「ぁあああぁぁぁ……帰したくない」
「ん、え? なに、急に」
……声に出してしまった。
恥っず。
ぎゅうぎゅうに俺の胸に押し込めたおかげで、顔は見られずにすんだ。
「もう結婚しましょう?」
「いきなりプロポーズやめて。しないから」
「えぇ!?」
「なに、そのリアクション」
「おつき合いを前提に結婚するって約束だったじゃないですか。俺を弄ぶなんて悪い女ですね?」
「そんな前提の結婚があってたまるか。法律と戸籍使って囲おうとしてくるな」
ペンペンと抱きしめた隙間から彼女が小賢しい攻撃をしかけてくる。
「ちゃんと考えるてるから、いい子で待ってて」
その言葉だけで、彼女に愛されていることを実感した。
「ふふ。あなたがそう言うのであれば、ちゃんと待ちます」
ベッドの上の余計なものを全て払いのける。
照れているであろう彼女の顔を暴きたくて、ゆっくりと押し倒した。
『秘密の箱』
10/25/2025, 8:42:36 AM