「なぁ、まだ怒ってるのか?」
お父さんが呆れたように言うから、わたしの気持ちは一気に冷めた。
お父さんに期待しても無駄だと、何度も自分に言い聞かせてきた。どんな約束をしても、必ず破られる。どれだけ信じても、裏切られる。
わたしの人生で起こった様々なイベントに、お父さんは最低限しか参加していない。
入学と卒業は学校に来ただけ。用事が終わればそそくさと帰る。お祝いの食事をとったりもしない。
小、中学校の運動会は一度も来なかった。クラスメイトは、親が作るお弁当を楽しみにしていた。みんなが『家族』を語る中、わたしだけが何も言えなかった。
ひな祭りにお雛様を飾ったことはない。七五三は写真がある。わたし自身に七五三の記憶はないけど、忘れてしまうほど、虚しいものだったのだろう。
親族で集まったりもしないし、わたしは親戚とまともに顔を合わせたことがない。
わたしの人生を彩るのは、オジサンという存在。
オジサンはお父さんの親友で、わたしと血の繋がりはない。だけど、誰よりもわたしの味方でいてくれる。居場所を与えてくれる。わたしの帰る場所は、いつだってオジサンのもとなのだ。
わたしとお父さんにも、月に一度の特別な日がある。二人で決めた『家族の日』だ。晩御飯だけは必ず家族で食べる決まりで、この日ばかりはオジサンにも席を外してもらう。……という話だった。
家族で過ごす時間は、故意に設定しても訪れない。
最後に二人で過ごしたのがいつかなんて、思い出せない。
昨日も『家族の日』だったのに、お父さんは『家族の日』に限って、朝から家を空ける。
朝、お父さんの背中を無言で見送ってから、オジサンが焼いてくれたホットサンドを食べた。
昼は近場の公園を歩きながら、オジサンと雑談した。夕方には帰宅して、もつ鍋を一緒に作って食べた。
これは、オジサンが考えた『家族の日』のプラン。丸一日かけて、何気ない時間をわたしと共有してくれた。
日付をまたいだ頃、お父さんが帰ってきた。電話中だったから、声はかけなかった。
玄関に座り込んで話すお父さんの背中を、わたしは無言でじっと見つめていた。
――キミと濃厚な時間を過ごせて、僕も楽しかったよ。
通話相手に、お父さんが言った言葉だ。職業柄、営業トークをしていたのかもしれない。「それは仕事の電話なの?」と、聞くことだってできる。でも、わたしは確認しなかった。仕事かどうかなんて、どうでもいい。わたしたちの特別な日を忘れて、お父さんは外で楽しんでいた。それが全てだ。
あたたかい家庭を羨望するくせに、自分で築くことをしない。そんなお父さんに、わたしはもう、何も感じなくなった。“気持ちが一気に冷めた”とは、そういうことなのだ。
わたしとお父さんに『特別な夜』は訪れない。
1/21/2026, 8:28:18 PM