まとー(しばらくお休み)

Open App

テーマ『空に向かって』

開け放たれた障子の向こう。手入れされた庭、よく晴れた空。そこへ向かって、布団の中から手を伸ばす。その手は、以前よりやせ細っていた。

「殿と共に、平和な世を目指す」。そのために、ずっと槍を振るってきた。勝利も敗北も味わった。仲間たちと研鑽の日々を送ったり、時には汚れ仕事をすることもあった。
「平和な世など、訪れるわけがない」と言われることもあったが、それでも俺はただ夢に向かって突き進んできた。……それだけだったのに。

病に倒れたのはひと月ほど前。最悪なことに不治の病だった。まだ、やるべきことはいくらでもあるというのに、体は言うことをきかない。こうして日がな一日、何もできないでいるというのは酷くつまらなかった。
(いっそあの戦で、華々しく散っていればよかったか)
最近は、そんな考えすら過ぎってしまう始末だ。

目に浮かぶのは、これまで駆けてきた戦場。上がる鬨の声、漂う血と鉄の臭い、死と隣り合わせの感覚。
庭では春を告げる鳥が鳴き、桜の花びらが風に乗って近くに落ちる。まさに「平和な世」だ。俺だけが、それを享受させられている。

俺はまた、空へ向かって手を伸ばした。もう届くことのない、空《ゆめ》に。

4/2/2025, 11:17:16 PM