その報せを受けてから、この人は始終俯き表情を見せなかった。自分の知らない遠い昔の、おそらく大切な誰かのこと。ようやく顔を上げたかと思うと、気を遣わせてごめん、などと言ってこちらに気を遣う。今にも泣きそうに歪んだまま、力なく笑おうとしていた。どんな相手であろうと、傍にいなかった人間は何もできないし何も言えることはない。泣き虫のくせに真っ当な大人だから、肝心なときに限って涙はひとつも出ないらしい。こちらも何と言えばいいかわからない。黙ったまま腕の中にその体を抱え込み、背中に手を回させる。これが正しいとは思えないが、これくらいしかできることがない。少なくとも、受け止めるのは傍にいる人間の役割だろう。自分に縋る指の先がわずかに震えている。物音ひとつない夜、ただそうして互いの存在を確かめていた。
(題:突然の別れ)
5/20/2024, 3:26:24 AM