特盛りごはん

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 その言葉を発した瞬間、揺れた気配と歪んだ表情に自分は一線を越えてしまったことを理解した。一瞬止まった呼吸を取り戻すように大きく息を吸うが吐き出した言葉は戻って来ない。

「……そっか」

 彼女は泣かなかった。ぽとりと落ちたのは言葉だけで歪に微笑む頬は濡れていない。それが逆に痛々しくて、けれど今の自分には彼女に手を伸ばす資格はないように思えた。
 彼女を傷つけたのは初めてではない。覚えているだけでも何度も、自覚のないことを合わせればきっと山程。
 それでも、こんな風に、諦めたように笑うことはなかったのだ。

「ごめんね」

 俺が言わなければならなかった言葉を告げた彼女の瞳に宿る諦念の色に、自分がずっと甘えてきた見えない何かが壊れたことを悟った。



/これまでずっと

7/12/2023, 1:44:32 PM