誇らしさ
これ、どうしたの。 一緒に風呂に入ったじいちゃんの、背中の傷跡をみて訊いた。
子供の頃、ちょっと怪我したんだ。 言ったのはそれだけだった。少し悲しそうな感じがしたので、それ以上は訊かなかった。
次の日。傷のことをばあちゃんに訊いた。
あれはね、兵隊の時の傷だよ、と言った。
かなりの大怪我だったらしい。
それでも死ななかったからね。帰ってきたからね。 ばあちゃんはしみじみと言った。
あんまり訊かないでやってな、と付け加えて。
ひどい記憶だから、思い出したくないんだろうな、とその時は思った。
僕の祖父母世代は、戦争の世代だった。当時のことを孫に話す人もまだ多かった。
でも思い返してみると、それまで僕は自分の祖父から、戦争の話をまったく聞いたことはなかった。
あとになって思ったのだが、戦争の悲惨な話を聞かせて、僕を怖がらせたくなかったのではないかと思った。
そう考えるようになってからは、なんとも言えない不思議な誇らしさを、自分のことのように感じながら、じいちゃんの背中を流した。
8/16/2024, 6:27:25 PM