保全し忘れました。2話連続です。
▶26.「微熱」
▶25.「太陽の下で」
24.「セーター」
23.「落ちていく」
:
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
---
「私は…」
「今は動くな。大穴に落ちたんだ、覚えてるか?」
「ああ…」
人形は視線のみを動かし、大穴に落ちる前と同じ場所にいることを確認した。
落下した衝撃でシステムダウンしていたようだ。
休止状態にまで復旧したところで、
攻撃を受けていることを検知し、✕✕✕は強制覚醒に至った。
目の前の男に叩かれたか何かしたのだろう。
己の肉体に意識を向けると、足を大きく損傷していることが分かった。
修復にはそれなりの時間がかかるだろう。
✕✕✕は、まずシブをどうにかすることにした。この男がいては修復がままならない。
「もう大丈夫だ。助けてくれたんだな、ありがとう」
「礼はやめてくれ。助けるのも当然のことだ。すまない、俺が注意を怠ったせいで✕✕✕の足を駄目にした」
「いや、それは」
「とにかく俺の責任だ。謝ってもどうにもならねぇが…もちろん治療にかかる金はいくらでも俺が出す。かなり痛むだろうが、森を出るぞ」
痛み。
(痛み…?)
人形に痛覚はない。また人間の前で損傷を負うのも初めてである。痛がる人間を見たことが無いわけではないが、どのように演出すればいいか全く分からなかった。
「話はわかった。だが痛みにはかなり強いんだ。肩を貸してくれれば歩ける」
「よし、それじゃ立つぞ」
✕✕✕はシブと共に、どうにか森を出た。
後は何とか理由をつけて、彼から離れれば-
「足なんだが、穴から引き上げるのに適当に縛っただけだ。まだ街まで長い、腐る前に巻き直すぞ」
止める間もなく腰を下ろされ、人形は座るしかなかった。
今までバレなかったのが不思議なくらいだが、ここは高く登った太陽の下。布が解かれ、損傷部分が露出すれば人間でないことが分かってしまう。
なんとか止めたいが、経験豊富な人間が相手では反論が見つからない。
逃げるにしても、シブを気絶させないと確実に捕まるし、そもそも気絶させる薬もなければ、足を損傷していては昏倒させるほどの殴る力が出ない。
(駄目だ。人形だと知られてしまう)
「シブ、謝るのは私の方だ」
布を解こうとした男の手を止め、人形は自ら解き始めた。
「✕✕✕…?」
「私は、人間ではないんだ。本当にすまない」
---
よく分からないことを言って、✕✕✕は布を自分で解いていく。
人間じゃない…?
森を抜けて明るくなった視界で折れた足首を見て、
ハッと息が止まり、反射的に後ろに飛び下がった。
体が臨戦態勢に入ったかのように鼓動が跳ね息が上がり、
微妙に熱が上がっていくのを感じる。
ぐにゃり、と脳から音がした気がした。
✕✕✕への認識が歪んでいく。
目の前にあるモノは何だ。
「危害は加えない。私は街には入らず、ここから去る」
もし、私が泊まっていた宿屋に消息を聞かれたら、急用で出ていったと伝えて欲しい。どうか私が人間でないということは言わないでくれ。
言っていることがよく分からない。頭を下げているコレはなんだ。
お互い無言の時間が続いた。
目の前にいる奴がピクリとも動かないので、さすがに頭は落ち着いてきた。
奴が言うには、✕✕✕は人間じゃないらしい。
人間じゃないなら何だ。
「人間じゃないなら何だ」
「私を作った博士は、人形だと言っていた」
思ったことがそのまま出てしまった。
人形、人形なのか…。
なるほど痛みに強いわけだ。
見た目の若さの割に落ち着きがあるのも、そういうことなのか。
ちら、と足首に目を向ける。
人間の血にしては色が薄すぎる。
中身も、まぁ見た事なんざ自分がやった時くらいしかないが、
違うわな。あんなんじゃなかった。
「それ、なおるのか」
「時間はかかるが、直せる」
「そうか…」
俺が何も言わなくなると、奴も何も言わなくなった。動かずにいる。
衝撃が去り、事実と奴が言ったことを並べてみると、
悪い奴ではなさそうなのは分かった。分かった、が。
だからと言って何の保証もない奴に対して俺の緊張は解けず、
再び膠着状態となった。
誰か通りがかったら相当変な目で見られるだろうな。
「む…すまない」
「なんだ」
「私は体の損傷が激しく、内部の修復機能が過熱状態を起こしている。休眠を要求する」
「つまり?」
「人間で言うと微熱程度だが、辛いので寝たい。助けてほしい」
助けて。
奴自身が人形と言ったくせに、
そんな人間くさい言葉が通じると思ってるのか。
頭では、そう思っているのに体は勝手に奴の方へ動いていた。
つまり、そういうことだ。
「はあー!分かった!分かったよ!どうすりゃいい!?」
了承の言葉を聞くと、✕✕✕は顔を上げた。
「私は光と熱を動力にしている。緊急事態のため目を開けたまま休止状態に入る。昼間は太陽があるから何もしなくていいが、日没後から一晩、火を焚き続けてほしい」
「火だな。もっと人に見つからねぇ場所まで移動するぞ」
11/26/2024, 10:01:42 PM