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〈懐かしく思うこと〉

 公園の砂場でダイヤだと騒いで硝子の小さな欠片を集めたあの日。蝉の抜け殻を見つけてブローチのように胸に付けて遊んだ日。「三時に公園集合な」と声をかけたのに、誰も来なくて、一人でブランコを漕いだ夕暮れ。
 あの夕陽の中で、僕は君に出会った。
 「何年生?」
 透き通るような肌をした女の子。僕はあんまりこのへんで見たことのない子だな、と思った。
 彼女は首をかしげて、しばらく答えなかったので、「ぼくは四年生だけど」と口早に言った。
 じゃあ、同じだね。
 彼女の口が滑らかに動く。朱をさしたような唇が色白の肌のせいで、より際立って見えた。
「え、何組? 同じ学校?」
 見たことないけどなあ、と言うと、彼女は少し微笑んで、おばあちゃんの家に遊びにきているの、と言った。
 だから、おんなじ四年生だよ、と。
 当時の僕は、空気の読めないクソガキで、虫と恐竜とゲームにしか興味がなかったので、こんなに綺麗な女の子と話しているのに、あんまり重大なことだと思っていなかった。僕はズボンのポケットをまさぐって、さっき拾った匂い付きペンを握りしめた。これをあげたら喜ぶだろうか、と。
 目の前で手をぱっと開くと、彼女はふわっと笑った。
「インクは出ないけど、においがするんだよ。せっけんのにおいなんだ」
 得意げにガラクタを説明する僕に彼女が不思議そうな顔をする。ちょっと迷ったように周りを見渡してから、お返しに、と手を差し出した。
 彼女の手にはいつの間にか、青白く光る小さな石があった。いままで見たことのない綺麗な石だった。

10/30/2023, 12:29:27 PM