◎力を込めて
大切にしていたい。
そんな執着が手元を狂わせる。
いつもなら直ぐに組み伏せてしまえるというのに、その手はただ空を切っていた。
ひらり。
すり抜けるあの子。
この手の中にあの子が収まった瞬間。
幸せが終わる。
この手は普段と同じように動き、花のような命を手折るだろう。
終わりたくなどない。
だのに、追いかけて捕まえてしまった。
両の手が正確に白く細い急所に掛かる。
もう少しでも力を込めればぽきりと折れてしまうだろう。
そんな命の瀬戸際で愛しい獲物ははにかんだ。
何を迷う。手に入るのだよ。
キミがずっと欲しがっていたものだろう。
今更怖気づいたなど言うまいな。
暗く、黒く。全てを飲み込むが如く。
光の立ち入りを拒む瞳の輝きが細められた。
惹かれる、引き込まれる。
月が宿ったその瞳から目を離せずに、指がその細首へと食い込んだ。
その月が欲しくて堪らなかったのだ。
ずっと昔から魅せられていたのだ。
瞳が閉じられる。
そこから流れ出た雫を口に含んだ。
10/7/2024, 2:54:29 PM