題 ハッピーエンド
ヤ、先生、こんにちは。オヤ、ガラクタが片付いている⋯⋯ アァ─奥さんですか、新婚生活が羨ましいですな、ハハハハ⋯⋯ 、 一度、お会いしてみたい⋯⋯。
進捗の方はどうですか⋯⋯ 。 ホオォ─────探偵小説(ミステリ)ですか、いや、意外です。
⋯⋯ ア、そうですか、恋物語はお辞めになる⋯⋯。 いやね、私(ワタクシ)も民草と同じ、あなたの夢世界に魅了された一人ですからネ。先生の物語は、みんなを幸せにできる⋯⋯。 これからも探偵小説を続けるおつもりですか⋯⋯ 少しザンネン。
⋯⋯ イヤァ、ハハハ、ヤハリ、あなたは私が担当した中で、1、2を争う小説家だ。⋯⋯ エ、アァ─、もう一人の天才は、もう書くのを辞めたんです。⋯⋯ 気になりますか⋯⋯ そうですか。
あの有名なQ先生ですよ。⋯⋯ そうです、あの“恋の神様”です。ヘェ──あなたもQ先生のフアンなのですか。どおりで、作風が似ていらっしゃる⋯⋯ ア、エラくスイマセン、失礼ですね⋯⋯。
世に知られるとおり、彼女の書く世界は清廉潔白、極楽浄土、フル・オブ・ラブを体現したものでした⋯⋯。 しかし、しかしネ⋯⋯ ご本人の恋はあまり良いものではなくてね、好い人には話しかけることもできない臆病者だったのですよ⋯⋯。
ある時、物書きの集まりで飲んだことがありましてね、Q先生はそこの若いバーテンダーに惚れ込みまして⋯⋯。 バーテンダーもQ先生に気があるようでして、仕事外でも連絡を取るようになったようです。
私(ワタクシ)、嬉しくってたまりませんでした。だって、アノQ先生が理想(ロマン)を現実にせんとしているのですから⋯⋯。
ほどなくして、お二人は結ばれました。⋯⋯ ズイブン、楽しそうでしたよ。だって、夢の現実世界ですからネ⋯⋯。 私は、お二人が指輪を交わす日を待ち望んでいました⋯⋯。
⋯⋯ しかしネ、そんな日は来ませんでした。バーテンダーは他に女を作っていたようです。Q先生との理想世界を、別の女とも作っていたようです⋯⋯。 彼奴は最期に、Q先生に酷いことを言って、どこかへ消えてしまったようです。
ソウ、“恋の神様”の夢世界は、盗賊の土足に踏み荒らされてしまったのです⋯⋯。 彼女は次第に憔悴していきました。ずぅっと涙を流して、長い髪を毟って、骨が透けるほどに痩せていきました⋯⋯。
私、悲しくてたまりませんでした。もう二度と、彼女の夢世界を見ることは叶わないのですから⋯⋯。 アァ、今思い出してもウラメシイ⋯⋯。 でもネ、もう過ぎ去ったことなのですよ。私は彼奴の行く末をよくよく存じておりますから⋯⋯。
⋯⋯ ある時期から、彼女はもう一度、夢の現実世界を目指し始めました。髪を梳かし、荒れた部屋を片付け、3食栄養のある食事をとるようになりました。元来、彼女は綺麗好きでしたからネ⋯⋯。
私が、
「どういう心境の変化だい。」
と聞けば、彼女は1冊の小説を見せながら、
「やっぱり、こうでなくちゃね。」
と言って、また髪を梳かしました。
その小説も、素晴らしい恋物語でした。まるで、Q先生がもうひとり現れたかのような錯覚を起こしました。ペンネームは忘れてしまいましたが、駆け出しの新人作家だったように思います⋯⋯。
それから暫くして、Q先生はどこかへ越して行きました。今はどこで何をしているのか分かりませんが⋯⋯。
⋯⋯ エ、何をしているのですか。アァ、探偵小説(ミステリ)が跡形もない⋯⋯。 ⋯⋯ エ、〆切ですか、三日後ですが。⋯⋯ 書き直すって⋯⋯ ハハ、承知しました、編集長に掛け合ってみましょう。ハハハ、新作が楽しみですなァ⋯⋯ ハッハッハハハハハハハ⋯⋯。
3/30/2023, 7:44:10 AM