▶99.「誰も知らない秘密」
98.「静かな夜明け」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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〜人形たちの知らない物語〜
(前話:94.「隠された手紙」)
この戦乱が無事に終わったら。
____が、そんな小さな夢を仕込んだ夜からしばらく。
対フランタ技術局に、ある重大な情報がもたらされた。
それは、王たちの乱心であった。
局長によって、即座に局員が食堂兼大会議室に招集され、____も向かった。
そして、上の情報が伝えられたのだった。
「王の乱心って…局長どういう事ですか?」
3国の長きに渡る戦乱の中で、
年越しの時期には休戦する慣習ができていた。
軍は引き上げ、王を始め重鎮も城に落ち着く。
それはイレフスト国においても同じで、
クリ・ス・マスという名の建国記念日を迎えるまで残り数日、
暗くなった雰囲気を慶事で少しでも払おうとしていた。
そんな中での出来事。
まさか____は事前に分かっていたなんて、
サボウム国からの仲間以外、誰も知らない秘密だ。
「F16室の仲間が知らせてくれたんだが、王が『朕の自慢の兵器、見せてくれるわー』と叫びながら出ていったのを何人も目撃したらしい」
「王の自慢したがりは今に始まったことじゃないっすけどね」
「他にもわぁわぁ喚きながら出ていった者がいるとかで、王宮は混乱状態という事だった」
王宮の誰もが同じ状態に陥っていたら、こんなに早く情報は入ってこない。
(まずイレフストはクリア、か)
その事実に、____は少し安心していた。
「だから、」
一旦言葉を切った局長に、全員の視線が集まる。
「ここは本日付けで廃棄する」
「ええ!せっかくクリ・ス・マスの飾り付けもして、それに、あれが…」
局員の一人が発した、濁した言葉によって、
今度は____に視線が集まる。
「ん?な、なんだ?」
うっかり安心していたところを突かれて、少々焦った____だったが、
視線の理由を察して、そのまま困惑した振りを続ける。
「落ち着け、そういう『嘘』をつくんだ。ここのメンバー以外誰も知らない秘密さ。なあ、____君や」
「はい」
「このゴタゴタが片付いたら、必ずここに戻って来てほしい。それで、メインルームにいつの間にか追加された小さい承認機、あるだろ?」
「はい」
「あれに触れれば、後は分かるから」
「…はい。落ち着いたら必ずここに戻ります」
「約束だぞ。では各自、撤収準備を」
◇
散らばっていく局員たちを見送り、食堂に1人きりになったところで、
私は椅子に腰掛けズルズルと机に倒れ込んだ。
肺が圧迫されて軽い咳が出た。
(机が冷たくて気持ちいいな)
最近、咳が止まらず、体力も落ちてきた。
気力だけで何とかしていたが、そろそろ限界だった。
あの地下通路も、自力で抜けるのは難しいだろう。
だが、このタイミングで局が解散になるなら、
この不調は、誰も知らない秘密にできる。
(みんなを地下通路から送り出して、メッセージを入れて、それから、それから…)
「いや、送り出してから、ゆっくり考えればいい。あいつら、私が一緒に行かないと言ったら渋るよなぁ」
ま、何とでも言い訳はつくさ。
パタパタと早い足音が近づいてくるのが聞こえてきた。
2/8/2025, 9:04:42 AM