『またね』
またねって言葉は、嘘なんかじゃない。
ただ…今は会えないだけなんだ。本当にいつかは会える。その言葉を信じていれば、きっと。
部活終わり、俺は燈真(とうま)と一緒に家へ帰っていた時のことだった。
「実はさ、お前に相談したいことあって」
「?」
深刻そうな顔で話す燈真の姿は、何か新鮮なものを感じた。いつも、元気で明るく、色んな人達と仲良くしてる彼は、今みたいな悲しい顔を一度も見せたことがないからだ。
……いや、俺が知らないだけで、あまり相手に不安にさせたくないから見せていないってことも有り得るけれど。
「…友達がさ、遠くに引っ越すことになったんだ」
「うん」
「もう二度と会えないかもしれないらしくてさ…俺はまだまだそいつと遊んでいたいし、これからも友人として仲良くしていきたいんだよ」
「うん、すりゃいいじゃん」
「でも一生会えないかもしれないんだぜ?忘れちゃはないか?」
俺は少し考えてから、燈真の質問を返した。
「どっちかが相手のことを忘れない限り、関係は消えないよきっと」
「……そうだよな!」
二カリと笑って、そう燈真は頷いた。
「あ、ソイツ彼女もいてさ。彼女も引っ越すって聞いても遠距離恋愛したいって言うんだ。上手くいくと思うか?」
「距離に負けない努力と愛があればずっと続くだろ。そいつもそいつの彼女もお互いに大好きならな。
でも、やっぱりそうなるとやっぱり一年に一回は会わなきゃいけないかもね。
どんだけ遠くてもさ」
「……そうだよな。ありがとう。相談乗ってくれて」
「?」
感謝の言葉を俺に伝えた燈真の表情は、優しくて、どこか切ない感じがした。
友人との別れ。俺は燈真の友人のこと知らないから分からないけれど、燈真にとっては本当に大切な友人なんだろうな。親友みたいな関係の。
そんな燈真の悲しい表情を打ち切るように、俺はにこりと笑って言った。
「さよならは絶対に言うなよ」
「…………え?」
キョトンとする燈真を尻目に、俺は優しく燈真に教えてあげた。
「俺さ…仲良かった好きな子が県外の学校行く時さ、その子がじゃあねって言ったんだよ。
だから、俺はまたねって返してやった。そしたら振り返って、その子が笑顔でうん、またねって返してくれたんだ」
「…もしかしてそれが今付き合ってる彼女か?」
「そうそう。中学の頃は遊ぶだけの仲だったけど、高校行ってからでも月に一回は会ってるし、連絡だってとってるよ。
ま、彼女は都会の学校通ってるんだけど俺会いに行ってるよ。だからお前も、さよならじゃなくて、またねって言うんだ。絶対に会えるし、言われた方もすごく喜んでくれると思うよ。引っ越す友人もさ」
「…そうだな。まぁ、その通りだな」
「だからそいつにもしっかりまたねって言ってやれよ。お前特有の笑顔でさ!」
背中をバシッと叩いて燈真に俺は二カリと笑顔で言った。そう言うと、燈真は悲しい表情から優しい表情に変わり、淡いオレンジ色の夕日に照らされたながら、俺にありがとうと言った。
やがて歩いていると、分かれ道に出た。右の道は俺の家で、左の家は燈真の家だ。つまり、ここでお互い別れることとなる。
俺は燈真に、じゃあまた明日と言って右の道に行こうとすると、燈真は急に俺の名前を呼んだ。
「……またな!駿希(しゅんき)」
にかりと笑って手を振る燈真の表情は、優しさと悲しさで溢れていた。
よく分からず、俺もまたなと手を振る。
燈真は、その数日後に県外に引っ越してしまった。
8/7/2025, 4:21:18 AM