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「…ねえ、なんで泣いてるの」
呟くようにそう言うと、君は悲しそうに顔を歪ませて、大きなしずくの粒を溢した。
「わからないのっ…?」
「えー、ごめん…わかんないかも」
戸惑いながら返すと、君は目を鋭くして、僕のことを睨む。
「…」
何も言ってくれないから、段々と不安になってしまう。
「えっと…僕が何かしちゃったなら、ごめんね?」
「何もわかってないくせに、そう言ってる?」
君に謝罪をすることしか僕には思いつかなかったから、とりあえず謝罪をしたんだけど、それが君は気に入らなかったのか間髪いれずに次話そうとした言葉を遮られてしまった。
「そう言うわけじゃなくって…んー、そうなのかな…?
ごめん、何にも覚えてないんだよね」
眉を下げて、申し訳なさそうな顔をすると、君は僕の手をぎゅって握ってくれた。
「いつか、きっと思い出せるから…自分のことも、みんなのことも」
「そっかあ、ねえ、もう泣かないでよ」
口角を少し上げて、励ますように手をぽんぽんと叩いてやる。
「僕が泣かせちゃったみたいじゃんか」
「…まあ、違くはないかもね」
「えっ」
「全部、思い出したら分かるよ」
「えぇ…じゃあ悪いの結局僕じゃあん…」
「へへ、そうだよ」
「その涙も、僕のせいなんだもんね。ほんとにごめん」
「…じゃあさ」
そこまでいって、君はにやついた表情をみせた。
「じゃあ、いつかこの涙、嬉し涙にしてよ」
「…!…もちろん」
そう言う君は、すごく綺麗で、美しかった。

3/29/2025, 11:18:25 AM