いぐあな

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300字小説

白き獣の伝説

 島が飢饉に陥ったとき、島の守り神の白き獣は島人に自分を狩れと言った。自分の生命はもう残り少ないから島の為に使えと。
 肉は食糧に、毛皮と角は大陸の金持ちに売り、血と骨は砕いて地面に撒いて肥やしにせよ。そう勧めて笑む、安らかな瞳に島人達は泣く泣く言われた通りにしたという。

 白き獣の血と骨が島の土地を豊かにし、飢えることはなくなった。毛皮と角の金で買った船で、魚も沢山採れるようになった。時が流れ、島は大陸間の航路の中継地として大きな港が出来、栄えるようになった。今はもうあの頃の貧しい島の面影は無い。

 しかし、空から優しい光が差すとき、風が穏やかに吹くとき、島人の目は、あの美しい獣の姿を探してまわるのだ。

お題「安らかな瞳」

3/14/2024, 12:01:00 PM