烏羽美空朗

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布団の上に仰向けになり、ランプの光が煌々と、木目の天井に揺れているのを感じながら、散歩道の途中にある古本屋で買ったばかりの中原中也詩集を開いていた。

それは全体的に黄ばんでおり、天の部分なんか日に焼けボロボロだ。しかし、一つ開いてみるとシミや汚れや折れなどは全くなく、とても大切に読まれていたことが窺える。それか、全然読まれずに日がよく当たる窓際に放置されていたか。

第1刷は1981年に発行されたと書かれており、この本は第24刷発行のものらしい。つまりは俺よりも年上、ということだ。

広がる自然の描写と酒の匂い、生の中の寂しさと、死への悟りに少しばかりの皮肉。中にはかなり直球な悪口もある。
そんな中でも一番好きな表現は、山羊の歌、サーカスの「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」というブランコの揺れを表したものだ。
何だか癖になる響きで、昔見た子供番組でそんな歌が流れていた気もするので、一番印象に残っている。

彼の作品はとても好きだ。しかし、酔った勢いに任せ、他人の家に叫びながら上がり込んだり、ビール瓶で仲間の頭を殴るなどの悪行三昧。そんな凶暴なチワワみたいな彼自身には正直、今この時代に彼が生きていて、なおかつ気軽に会えるとしても会いたくはない。

夜がふける。本を持つ手に力が入らなくなってきたのを感じてきたら潔くそれを閉じてランプの横に置き、そのまま枕元に用意しておいたノートに詩の感想を書く。眠りにつく前の最後の執筆だ。

……筈だったのだが、どこかに転がった鉛筆を探そうと、身体を起こそうとしているのに、その思いと反比例して、ふうぅ……と力が抜けていく。

あぁ、まずい……瞼が重くなってきた。


まだ……中途半端、な……とこ……




眠りにつく前に

11/2/2022, 1:46:49 PM