──【コーヒーが冷めないうちに】──
静かな午後3時。 リビングの机に座りながらアルバムの整理をしていた。 細く煙をたてるマグカップのコーヒーをお供に。
僕はメガネの真ん中を人差し指でカチャと支えなおしてため息。 どれもこれも、沢山の可愛い柚希で溢れている、故のため息だった。園から購入した質のいい写真と、僕が撮ったブレが多い写真の数々。
写真の主役は目と鼻の先のソファーにコロンっと横になって、すやすやと眠っている訳だが。
「あ……これも懐かしいな」
場所が足りなくて、単にアルバムの中に差し込んでいただけの写真が机の上に落ちてきたから、拾ってみる。 その写真の中の柚希はまだ1歳半かそこら辺。
マンションの共用廊下から、柚希を抱っこしていた僕は、共用廊下の大きな窓の近くで外の景色を楽しんでいた。 「いまとりさんきたぞ!」とか「雲が笑っているよー」だとか、そんな他愛もない事を喋っていた……ような気がする。
その時に、確か買い物帰りのご近所さんに声をかけられて、振り向いた。 その時の写真。まさか撮られるなんて思わずに、ちょっと変な顔をした僕と、親指を口にくわえて、まんまるの瞳で不思議そうにカメラ目線の柚希。
それから少し会話をして、せっかくだからとその時の写真を貰ったのを覚えている。中身はあまり覚えてないけど、多分、柚希の事を可愛い可愛いと言ってくれたのは確かだろう――前を見るとニコニコと笑っている妻も次から次へと写真をとりはじめた
懐かしいね、樹
「あぁ、懐かしい」
……それから、一緒に里奈とも遊んで、家族3人で自撮りしてみたり、他愛もない会話をしたり、
「ねぇ、おとー」
「里奈も覚えてるよね」
僕も満面の笑みでわらって……それでほかの写真もみていく。
どれもこれも、家族3人の写真で”僕と柚希が二人で”ピースをしている。たくさんの写真をみて──〈〈おとーー!!!!!!!!ってばぁぁぁぁ〉〉
ガコンッ……へんな音と痛みで、変なところにぶつけたのか脇腹を慌てて、かるく撫でた。いったい、いまの爆音は……あれ。 ポヤポヤとした目を手のひらの拳でゴシゴシとすると、段々と視界も開けてきた。
……あぁ、そうか。 アルバムを整理している途中で、恐らく、たぶん寝落ちしてしまったのだろう。僕の膝にいつの間にか乗っかって、僕を起こしていたであろう柚希。 その頭に僕の頭をぼふっと軽く預けた。
「おとー、ねちゃってたね」
「ん! ねごといっぱい! かぁかぁのじかん」
「嘘だろぉ……」
息子の言葉に目を剥いて……恐る恐るスマホの電源をいれる。 思わずすぐに消した。確かにさっきまで15:00だと思っていたのに、もう17:30を過ぎようとしている。 せっかくの日曜日、まさかこんなところで寝落ちをしてしまうとは。
アルバムの整理はまた今度か、と少しだけ重いため息をついて、ガサゴソと適当に並べ直してダンボールの箱にしまい込む。
それから、手元に置いていた、コーヒーのはいったマグカップ。 半分以上残っていたそれを、思いきって飲み干した。
「……にがっ」
アイスとはまた別の、冷たさと、美味しくない苦味のコラボに思わず、渋い顔をしながら舌を出していると、柚希はケタケタと笑って、僕の顔を真似してきた。
「おとー、おもしろい」
「水でも飲むかぁ……」
そしてゆっくりと、柚希の脇を掴んで隣の椅子にうつしてから、立ち上がって水を取りにキッチンへ向かった。
【次はコーヒーが冷めないうちにアルバムの整理でもしよう】
9/26/2025, 12:40:54 PM