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秋の夕暮れは、煙の匂いがする
僕はそれが好きだった

シャッターを切ればその匂いごと紙に映る気がして
ピントが合ったら、まるで生き急ぐかのように
小さな手に余るフィルムカメラで写真を撮ってた


じいちゃんは優れたカメラマンだった

ピカピカのレンズ越しに見える世界を
まるでその人が、肉眼で見ているように魅せる
そんな写真を撮る人だった

じいちゃんはマメな人だった
散歩に出掛けて撮った写真を現像して
何冊ものアルバムにしていた

僕はよく、じいちゃんの部屋でアルバムを見ていた
じいちゃんは、アルバムを物語だと言ってたっけ

季節が流れて、雨が降って雪が降って
雪が溶けたら花が咲いて、また枯れて枝になって
水が海に流れて、雨になって大地に戻って
また海に流れて・・・
世界を取り巻く全てが、物語なんや
そういう時の流れが一連の物語

わしらはその挿し絵を撮る係
人を撮るカメラマンは、人の物語を
動物を撮るカメラマンは、動物の物語を
自然を撮るカメラマンは、自然の物語を

わしはその物語が大好きでな
永年変わらないであろう桜並木だとか
一時間もせずに表情を変えてしまう空だとか
そういう物語に惹かれるんやよ

そのときの僕には、まだ理解ができなかった
困ったように考える僕を見て、じいちゃんは笑った

お前もなにか一つ、物語を撮れば分かるさ


じいちゃんは六年前に亡くなった
僕も就職して、家庭をもった

それでもカメラは手離さず持っていて
子供が生まれたときから
ずっと写真を撮り続けている

今更になって分かったかもしれないよ、じいちゃん

この子は僕の、もう一つの物語だ
この子が大きくなっていくと
きっとアルバムも大きくなっていって

なにか一つの物語を撮ると
全ての物語につよく惹かれていく

この子と一緒にいると
もっともっと物語が増えていく

それは、僕の愛すカメラで撮った物語
2、3ページしか埋まっていない
まだ始まったばかりの、もう一つの僕の物語

10/29/2022, 4:14:03 PM