休日の朝は、トーストが焼けるまでの間に手帳の整理をしている。
お気に入りのペンを片手に、終了したタスクには消し込み線を入れ、今後のタスクについては、諸注意や気付いたことを書き込んでいく。
仕事の効率化と共に頭の整理にもなるので、手帳に向き合う時間は大切だ。
異動する前は、スケジュールのタスク欄がみっちりあるとうんざりしていた。タイムスケジュールを書き込んで管理してもその通りに進むことは稀で、リスケにリスケを重ねたページはグチャグチャだった。
今思えば、慣れない環境、慣れない仕事に手一杯で心の余裕がなかったのだと思う。
実際、その手帳を使っていた時はケアレスミスばかり起こしていた。
今は、手帳のタスク欄が賑やかになってくるとほくそ笑んでしまう。
タスクの分だけ博士の力になれるし、頼ってもらえていると思うと純粋に嬉しい。
仕事というのは誰かの為になる。
それは、ユーザーやエンドユーザーだけでなく、協力会社や自社の人間もその中に含まれる。
顔も知らぬ人の為を思うのは、あまり実感がわかなかった私だが、かつて憧れた人の為になる今は、その喜びを人一倍噛み締めている。
鼻歌を歌いながら手帳のページを捲ると、手帳にありがちな、やりたいことリストの頁が出てきた。
こちらは先のToDoリストとは違い、将来の願望や願い事を書くリストだ。
仕事上のやりたい事はそれなりに埋まっているが、プライベートにおけるやりたいことの項目は埋まっていない。
一応、「恋人を作る」や「いつかは結婚したい」等、一般的な願いを書いているが、取り立てて今すぐ叶えたいとは思っていない。
願望の程度としても、叶えば良いなぁであり、絶対叶えたいとまでいかない。
そういえばいつだったかの三時の休憩中に博士に言われたことがある。
「君は何かやりたいと思うことはないの?」
いつも僕を手伝ってくれるけれど、研究したいことがあるならしても良いんだよ?
そう続けた博士は、気遣わしげな表情をしていた。
私は若干苛立ちながら「個人的に研究したいとか、そういうのは特にないんです」とキッパリ言い放った。
博士はしょげた様子で小さく「そう」とだけ返すと、背中を丸めて温くなったお茶を啜っていた。
あの時、博士に言えず飲み込んだ言葉がある。
やりたいことは、もうやっています。
貴方の役に立つことが、私のやりたいことなんです。
──なんて、本人に言えるわけがない。
博士の鈍感。
そう心の中で野次ると、記憶の中の博士はますます小さくなってしまった。
6/10/2024, 1:44:35 PM