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-最初から決まってた-


うちの数軒隣には、小さな神社がある
いわゆる氏神様とか地の神様とかいうものかもよくわからないが、最低限のお社に小さな境内
それでも鳥居の横には小さな手水舎もある
とはいえそれだけのことで、普段なんとなしに通り過ぎてしまう


ここしばらく仕事が多忙で、夜は寝に帰るだけの生活
多忙と言っても、イヤな先輩がわざと夕方に作業を振ってくるために残業ができるだけなのだが、そのような悪意を今まで経験したことがない私は対応しあぐねていた

そんな毎日の繰り返し
相変わらず暗い道で神社を振り返ることもないし、ぼーっとした朝も同じに通り過ぎるだけ
特に参拝者も無さそうな神社に気を止めることはない

だがついに食事もままならなくなり精神を病み、このむせかえるほどの暑さによる寝苦しさもあって最近夜はうまく寝付けない
朝も起きられ無くなってきてしまった


—転職、しようかなっていうか、とりあえず辞めたい


そんなことが頭をよぎるだけの、珍しくもない社会人になった


ぼーっとした頭で生活しだして数ヶ月めのある朝
明け方やっとうつらうつらしたばかりで起き上がれないでいる私の耳に、子どもたちの笑い声が飛び込んできた

—ぇっ!?寝過ごした!!?

じわりと背中に冷や汗が滲むがそれでもまだ起き上がれない

—ぁー…もう…いいや

そう思ったとき、

「あーたーらしーいーあーさがきたっ
 きーぼーおのっ あーさーだっ」

—!?
「まてまてまてまてっ」

なぜかひとりでツッコミを入れてしまった

「まずは手をあげて、背伸びの運動からっ」

「いやいやいやいやっ!」


ツッコミのおかげで起き上がれた…だとぅ?

そうか…夏休みか…いーなー子どもは
でもこんな時間からラジオ体操とかって、集団に飲まれて大変ね
嫌な子もいるだろうしやめちゃえばいいのに
ま、子どもじゃ、そんなこと考える頭もないかぁ





1週間後、私は神社にいた

「おねえちゃんおはよう!」
「おはよっ」

一見地味に見えるこの運動は、身体中あちこちの筋を刺激してくれる
運動不足で鈍った体に必要な動きが揃っていることを実感する
意識しないとうまくできないでいた呼吸もできるようになった

—あぁ、空気がおいしいっ

朝からジワジワと迫る蝉と太陽
木陰は濃い緑と黒のコントラスト
笑顔で挨拶を交わすひとたち


私は3週間後の退職にワクワクしながら、先輩の顔を見つめ返すこともできるようになった


—簡単なことだった、自分の中に答えがあったんだ


シャワーをして制服に身を包む

神社に会釈をしながら
今日も私は仕事に向かった

8/7/2023, 2:37:45 PM