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『散歩』



 僕の部屋の窓からは月が見えない。
 家の前の街灯さんが眩しくて、ぜんぶかき消されてしまう。

 だから僕が夜空を拝めるのは、面倒な塾や部活動が終わったあとだ。
 だからといって、特別美しいものでもない。
 だって、毎日通る道端に咲いてるありきたりな花を見て、感動できる?

 だからべつに、部屋から空が見えなくたって、なんも不満はない。 


 ただ。
 この日は…。
 少しちがった。

 いつものごとく、何気なく窓から闇をのぞいていたらふと、彼女のことが頭によぎった。

 それからだ。無性に星が見たくなって、家を飛び出したのは。
 パジャマのまま、マスクもつけずに。

 人の影なんてなく、住宅街なものだから街灯もない。
 頭上の星明かりと月明かりは、ほとんど地上まで届いていない。
 いつもだったら怖いと思っていた夜の家々も、不思議と怖くない。


 満天の星空の下、僕は夜の散歩を始めた。

7/5/2022, 11:42:07 AM