雷鳥໒꒱·̩͙. ゚

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―真夜中―

深夜、私はぱちりと目を開けた。
ここは真夜中の病室。薄闇の中。
ああ、そうだ、確か今宵は新月だったな。
珍しいことではない。寧ろ習慣。
私は毎晩、この時間に目を覚ます。
そして、毎晩零時ぴったりに
窓の外から現れる来客を待つ。
病室ほど退屈な空間はないと思う。
私は小さな頃から厄介な心臓病を患っていて
物心ついた頃にはもう病室暮らし。
小学生になる頃くらいまでは
入退院を繰り返していたが、
最近ではろくに外の暮らしをしていない。
もうこの世にいる時間が足りない人たちに
分け与えたいくらい、
頭が狂いそうなほどの時間を持て余している。
だからこれは今まで生きてきた時間の
4分の3ほどを病院で過ごす私の、
半年ほど前なら続く日課なのだ。
来客が訪れるまで、壁がけ時計の秒針を
聴いていた。カチ…カチ…、と規則正しく、
途切れることのない音が心地いい。
これだけはいつまでも飽きないから不思議だ。
そして数分という時が過ぎた頃、
「こんばんは」
と、落ち着いた雰囲気の低い声音と共に
窓から現れた人。地上5階の部屋の窓から
入ってくるところからもわかる通り、
正確には人ではないらしいが、
その正体は未だ明かしてくれていない。
私の日課とは、この人と小一時間を過ごすこと。
何をするでもなく、ただただ、お喋り、
時には沈黙の時間を楽しむ。しかし、
彼はその対価として私の血を求めてくる。
そこに対して抵抗はないので、こうして
毎晩お喋りをする。
「今日は一段と疲れたな」
『何かあったの?』
「今日は新月だろ?新月は月夜より
活動しやすいから、日が落ちた頃から
飛び回ってたんだよ」
『そうなんだ。お疲れ様』
彼との会話は、昼間の看護師さんたちとの
会話とは違い、ハキハキと急かす感じがなく、
落ち着いたトーンの会話だから、
すごく安心感があるし、心が凪ぐ。
すると彼はゆったりとした服の開いた袖口から
いつもの小さな小瓶を取り出した。そして
私が差し出した人差し指の腹に爪を差し込んで
滴る血を小瓶に集めた。検査などで、この程度の
痛みには慣れている。真夜中に紅色の雫が
ぽたりぽたりと落ちていく。私の心が
満たされていく。
時はあっという間に過ぎ、血は小瓶を満たした。
その間も私たちは心ゆくまで喋った。
「そろそろお暇するね」
『うん、わかっ…ゴホッゴホ』
咳き込んでしまい、鼓動が早くなる。
それを見た彼は特に驚くことも無く、
冷静に私の背を擦り、机に置いてある水と
薬を渡してくれた。
「ゆっくり休むんだよ…良い夢を」
『また明日ね』
そして私は再び秒針に耳を傾け、
少ししてからもう一度目を閉じて眠りについた。

「やあ、読者の皆様方、こんばんは。
ふふふ、結局俺はなんなのかって
聞きたいんでしょう?
なら教えてあげよう。
俺はね…死神、だよ。
血をもらうのは、血の色々からあの子の死期を
確かめるためさ。
俺の担当するあの子は、血をもらう代わりに
しゃべり相手になって欲しいと望んだから、
俺の仕事はあの子の血を集めながら
喋ることだ、暫くはね。
あと、もうひとつ良いことを教えてあげよう。
死期が近くない人間は
死神と話すと死んでしまうんだ。
いや、心配は要らないよ。これは俺の一方的な
会話だからね。こんなくらいじゃ死なない。
あぁそうそう。1番大事なことを
伝え忘れるとこだった。
俺のことは故意に口外しないように。
厄介なことになりたくなければね。
では、良い夢を」

5/18/2023, 12:48:35 PM