Kanata

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海を見て冬を実感する感触は、
過去の幸福を省みて孤独を知る痛みとよく似ている。
このまま波打つ怪物の住処に身を投げようと、
引き揚げて攫って抱きしめてくれる神様など存在しないことを、涙一粒の湿度も消える程渇ききった風に当てられてようやく覚えるのだ。寂しい手の指にはたった一つ水縹の指輪が光るばかりである。
幾度と莫大な不安感に背中を押され始発列車に飛び乗ろうと、結局はその広く果てしない生命の青に魅了され、その小さな波の端に足をつかすことさえ恐れてしまうから、私はこの人生という等に枯れ果てた花束の残骸を背負っているのだろう。
どれだけ私の心が荒もうと、海は青い波をひたすら打つだけであり、私の中心に燻る心臓もまた赤い脈を打ち続けるばかりであるから、この世はどうも苦しい。
"国破れて山河あり"という諺を頭に浮かべてはまた、幼いあの日の彼女のいたいげな微笑みの一つに脳をジリジリと焼かれていく。
この彼女の全てに焼き爛れた脳は、いくら絶対零度の凍える海でも冷やすことは不可能である。
沸騰した脳の暑さを逃がすように、彼女の住まう石造りの小さな家に慈しんで水を注ぐように、登る朝日に心洗われるように、私はまた、この今際の際で一頻り涙を流すのだった。

2025/11/02【凍える朝】

11/2/2025, 3:51:54 AM