わをん

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『特別な存在』

ステージの上で歌と踊りで疲労もものすごいはずなのにそれを一ミリも感じさせずに観客に手を振り、笑顔まで見せてくれるアイドルたち。その一員のひとりは私にとって特別な存在だ。がんばってと応援する気持ち、どうしてそこまで一生懸命なのかと感動する気持ち、そんな姿を見せてくれて感謝しかないという気持ちをペンライトに込めて両腕を振りに振り、気づけばステージを去っていく彼を号泣しながら見ていた。
週刊誌に私服姿の彼が写っていた。傍らには私服姿の女性アイドルがいて、熱愛という見出しが踊っている。アイドルの裏側なんか見たくないという気持ちと彼のことをもっと知りたいという気持ちをせめぎ合わせながらコンビニの雑誌コーナーでしばし立ち尽くしたあと、カップコーヒーだけを手に店を出る。指先はじんわりと温かいけれど心のどこかがひんやりとしていた。彼はいつかは誰かとお付き合いをするだろうしいつかは誰かと結婚もするのだろう。ぼんやりとわかっていたことだけれど、いざ目の当たりにすると予想していたよりも自分の足元がぐらついた。
それでも足が現場に向かってしまう。以前よりも顔見知りのファンが数を減らしていても、いつものようにステージは始まる。これまでと同じ気持ちで彼を見られないかもしれないと思っていたけれど、杞憂だった。彼は変わらず全力で歌って踊り、観客の声援に全身で応えていて、それを見る私は応援し、感動し、感謝を返した。号泣のさなかに思う。私ができることは応援と感動と感謝、そのぐらい。けれど彼にとっての特別な存在にはそれ以上のことができるのだろう。彼女の存在が彼のプラスになるのなら応援してあげたい。足元のぐらつきは収まり、冷えていた心も気にならなくなっていた。

3/24/2024, 1:05:02 AM