山羊野

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 子供の頃、窓につたう雨を飽きずに見ていた、遠出をした日、高速道路の灯りに照らされて、車窓に吹き付ける雨の雫がひかり、したたり、幾筋も川のように流れ落ちていくのをずっと見ているだけの時間があった。夏の日に親戚の家で注がれたジュースのコップにいつのまにか滲み出て、表面の花柄を歪ませながらするりと滑りおち手を濡らした雫を、大人たちの話を聞き流しながらぼうっと眺めていた。降ってくる雨の雫を見るのが心地よくていつも透明のビニール傘を選んだ。最近そんなにじっと何かを眺めたことがない気がして、雨など今でも別にめずらしくないのに思い出すのは昔のことばかりで、同じ眼でも見えるものは随分変わってしまうのだと思った。クープランの墓をきくとき音が雫のようになることがあって思い出すのは昔見たものばかりだ。ありふれたしかしいつまでも飽かず眺めていられる美しい雫で視界が満ち満ちていた時の。

(雫)

4/21/2023, 11:39:14 PM