「十人十色という言葉があるでしょう」
私は教卓を離れて子供たちの席に歩み寄る。
「人は、みーんな違う色を持っているのです。そして、みんな違って、みんないいのです。それを忘れてはなりません」
机と机の間をまるでファッションショーのように美しく歩く。今、とても美しいフォームだ。カツカツと鳴る靴の音が心地よい。
ねぇ、先生。
1人の女子生徒が口を挟む。この子、確か文化部所属で運動ひとつもしてないから標準体重だった。もう少し体重を落としたら美しくなるわとこの前アドバイスしたばかりだった。
「じゃあ、どうして先生は美白とか除毛とか体型とかばっかり気にしてるんですか。多様性を説く割に、自分がしてることって画一化じゃないですか。ひとつを美だと決めつけてその尺度で物事を測ってる、おかしくないですか?」
彼女の鋭い目つきから目を逸らすと、みんな、私を睨んでいた。化粧っ気のない子、腕の産毛の処理をしない子、痩せ型でない子、そんなのイマドキ可愛くないじゃない。いくら多様性だからと言って、笑われたり貶されたりする立場になりたくないじゃない。あなたたちのためを思って言ってあげてるのに。何よ、何よ、その態度は。
みんな、私と同じ色になってしまえばいいのに。
私の本心を包む美しい思想がべらりと剥がれた。
1/8/2024, 1:46:20 PM