悪役令嬢

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『世界の終わりに君と』

年代物のシャンパンを片手に
悪役令嬢の屋敷へ訪れた魔術師。

来たる終末の日────
悪役令嬢のお屋敷では
お別れパーティーが開かれていた。

悲しいことに彼女は友達が少ないので
呼べる相手はごく僅か。

父からの返答は「行けたら行く」
お父様、それは絶対に来ない方の常套句ですわ。

限られた友人たちも
最期の日は家族と過ごすと決めていたので
参加者は悪役令嬢と執事のセバスチャン、
魔術師の三人だけ。

ろうそくの仄明かりの中、
純白のテーブルクロス上にご馳走が並べられる。
ローストポーク、ラザニア、マルゲリータ、
焼き立てのパンが入ったバスケット。

バターのコクとレモンソースの風味が
加わったリッチな味わいの白身魚のムニエル。

さわやかなトマトの酸味が口いっぱいに
広がるカチャトーレ。

エビと野菜のアヒージョは、
カリカリに焼いたパンと一緒に召し上がれ。

「セバスチャンの料理は絶品ですね」
美食を堪能する魔術師が執事へ
賛辞を送ると、悪役令嬢が口を尖らせた。
「私も一緒に作りましたわ」
(野菜を切ったりしただけですけれど)

お次にシャンパンのコルクがポン!と
小気味好い音を立てながら解放され、
ぱちぱちと弾けるシトリン色の美酒が
フルートグラスに注がれてゆく。

「乾杯!」

グラスを合わせると涼やかな音が鳴る。
フルーティーかつ芳醇な香りと味わいに
うっとりとした笑みを浮かべる悪役令嬢。

「はぁ、素晴らしいですわ」
「ふふ、実家の酒蔵からくすねてきた
甲斐がありました」

美味しい食事とお酒に和やかな会話。
和気あいあいとした雰囲気から突如、
悪役令嬢がわっと泣き出した。

「主!どうなされましたか」
「私……もうあなた方に会えないと思うと、
悲しくて涙がちょちょ切れてしまって」

巷ではノストゥラサムスンによる
終末論が世間を騒がせている。
悪役令嬢もその噂に感化された一人だ。

アルコールで涙腺が緩んだ彼女は
ナプキンでちーんと鼻をかむ。

それを見た魔術師がセバスチャンに耳打ちする。
「まさか、お嬢様はあの胡散臭い予言を
信じておられるのですか」
「ああ……」
ヒソヒソと密談する二人を
じろりと睨む悪役令嬢。
「あら、殿方たちで私の悪口でも
お話されているのかしら?」
「そんな訳ないじゃないですか、ねえ」
魔術師がセバスチャンに促すと、
見目麗しい執事は目を泳がせた。

隕石の襲来に恐れ慄きながら、
いつの間にか眠りに落ちていた悪役令嬢。
目が覚めると宝石のような朝日が東の空に
浮かんでおり、あの予言がでたらめだった
ことにようやく気がついたのであったとさ。

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※『明日世界が終わるなら』
と話が繋がってます!

6/7/2024, 6:15:09 PM