色んなジャンルの本が、ぎゅうぎゅうに詰まっている木の本棚。
ここは私がいつもお世話になっている地元の本屋で、創業六十年以上らしい。
店内は少し埃っぽいけど、品揃えはいいのだ。
ぐるっと店内を一周して、ようやく目的の本を発見した。
本は、本棚の一番上の段にある。
手を伸ばしても、背伸びしても、何度ジャンプしても、身長が低い私には届かない……。
近くにあった踏み台を使おうとしたけど、穴が開いていて、使用禁止の紙が貼っていた。
うーん……どうしよう……。
店主のおじいちゃんは、レジでカバのような大あくびをしている。
立ち読みしてたらすぐ飛んでくるくせに、客が困ってるんだから飛んで来なさいよ。
まぁ、私から言えばいいんだけど、迷惑をかけたくないという気持ちが勝ってしまう。
こうなったら、もう一度思いっきりジャンプして……。
「なにやってるんだよ。美貴」
「きゃっ」
「女みたいな声出すなよ」
「女なんだけど私。てか、いきなり失礼ね。隆」
声をかけてきたのは、同じクラスであり、幼なじみの隆。
私より身長が、ぐーんと高い男子だ。
「なんで隆が本屋にいるの?」
「母さんに買い物をたのまれて、買い終わったからちょっと本屋に寄っただけさ。そしたら美貴がカエルみたいにぴょんぴょんジャンプしてたから、声かけたんだよ」
「か、カエル……」
せめて猫って言ってほしい。両生類は、なんかやだ。
「本を取ろうとしてただけよ。悪い?」
「なんだ、そんなことか。美貴はチビなんだから無理するなよ。で、どの本だ?」
「一言多いわよ。えーと……一番上の段の一番端の本」
「これだな。よっと」
隆は少し背伸びして、軽々と本を取り出す。
「なになに……誰でもできる恋愛テクニック?」
「ちょっと!タイトルは見なくていいの!」
私は慌てて隆から本をうばい取る。
一番見られたくない人に見られてしまった。
「美貴は恋する前に、優しくなったほうがいいんじゃないか?」
「余計なお世話よ!早く帰れノッポ!」
「へいへい。おじゃま虫は帰りますよっと」
隆は回れ右し、買い物袋をゆらゆら揺らしながら、本屋の出口から出ていった。
「あんたを落とすために読むのよ……ばかっ」
本をぎゅっと胸に抱く。
隆の前だと、つい強い口調になってしまう。
本を取ってくれたのに、お礼を言いそこねこしまった。
明日、学校で会ったら改めてお礼を言おう。
支払いをするためにレジへ行き、カウンターにポンっと本を置く。
「美貴ちゃんの恋、応援しとるぞ」
店主のおじいちゃんが、私にエールを送ってくれた。
5/9/2025, 3:30:54 AM