題:運命
ーー私のママは、病気だった。
ママからは、そんなことは聞かされていなかった。いつも元気だった。笑顔が綺麗だった。
無理をしているようには、とても見えなかった。
ママが出かけていたのは、多分病院に行って診てもらっていたのだろう。
そこでママは、不治の病だと、言われたのかもしれない。
パパはママの病気を何とか治そうと頑張っていたのだろう。私が知らないところで。
……どれだけ手を尽くしても、ママの病気は治らないと分かっていながら。
運命とは、神の与えた試練だと、私は思う。
神は乗り越えられない試練など与えないと信じている。
……ママは、死という試練を与えられた。
大切なものを捨て、散ることを。
その試練をなぜママに与えるのか。理不尽でならないと思っていた。
何度もママを連れて行かないでと、行かないでと、星に、神に願った。
でも、その願いが聞き届けられることは無かった。
運命には逆らえない。
それは、ママが一番よく分かっていたことだ。
なのに私は、運命が変わることを願った。こんな非力な私では、決して変えられないというのに。
……でもね、ママ。
大切なものを奪われた代わりに、大切なものができたの。
………好きな人が、できたんだ。
私はその人が愛おしくてたまらない。本当に大切なものを見つけた気がしたんだ。
この人だけは、行かないでほしいと、本気で願った。
お題『行かないでと、願ったのに』
11/3/2025, 11:49:26 AM