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「どこか、痛みますか?」
俺を見た彼女はキュッと猫のように瞳孔を細くして、パタパタと駆け寄ってきた。
「なんで?」
「涙が、」
「……泣いてるのか、俺」
「そうみたい、です」
——たまにあるんだ。気にしないで。
そう何でもないことのように言って涙を拭う。でも、あれ、おかしいな。……止まらないな。
「困ったな」
はは、どうしよ。
何がおかしいのかなんて分からないのに、自然に笑い声が喉の奥から漏れ出した。感情が闇鍋みたいになってる。どうしようもないな、ホント。
目元を拭いながら、止まらない涙に笑っていると、腰のあたりに彼女が抱きついてきた。
お腹すいた? と聞くと、首を横に振った。疲れた? と聞くと、「んん」と否定らしい声を漏らした。
「泣かないで」
彼女は今にも泣きそうな声で、そう言った。
「泣いてもいいけど、泣かないで」
「ひとりで、泣かないで」
ぐず、と鼻を啜って、抱きつく力を強くして、弱々しい声でそう言った。
「……ごめんね」
頭を優しく撫でると、「ん」と頷いた。
「あと、ありがとう」
撫でる手を何度か往復させているうちに、自分の涙が止まっていることに気が付いた。
気が付いて、そして、今度は俺が彼女に先程の言葉をかける番になったことにも気が付いて、思わず声を出して笑ってしまった。

11/30/2022, 11:05:43 AM