「貴女はそこにいればいいんだ」
私が生まれてからずっと言われ続けていた言葉。
──私は籠の中の鳥。
外へ行くのは学校と社交場へ行く時だけ。
そのほかの世界のことは知らない。
最初は当たり前だと思っていた。
だけど、服が小さくなる度に、外への興味が湧いてきた。
「貴女はそこにいればいいんだ」
両親、親戚、使用人……全ての人が口を揃えてそう言った。
だから、私も思うようにした。
知らないフリをすればいい、それが幸せなんだ、と。
──私は籠の中の鳥。
綺麗なドレスを着た私はふと夜空を見上げた。
鳥だって、空の星くらい見て世界を想像するくらいの自由はあってもいいよね?
「……星を見るのがお好きなのですか?」
不意に声がした。
振り返ると、燕尾服を着た若い男性がにこりと微笑んでいる。
「……いえ、ただ見ていただけです。世界はどれほど広いのかと……あ」
しまった、と思った。
明らかに失言であった。
……そのはずだった。
「ええ、分かります。世界は私達の知らないほどに、想像も出来ぬほどに、色んな人種、色んな生物、色んな文化が広がっているのかと思うと、胸が躍りますよね」
彼はそう言った。
彼は間違いなくそう言った。
一見真面目そうな彼がそう言ったのだ。
「……変だと思わないのですか?」
「何がです?」
「私が、ある一族の娘である私が、世界を知りたいだなんて、非常識だと……」
私がそう彼に問うと、彼はくすりと笑ってこう答えた。
「貴女が知りたいと思ったことは、例え世の中の役に立たなくとも、必ず貴女の役には立つはずです。その好奇心・探究心は忘れてはいけませんし、捨ててはいけません。……貴女は世界を知って良いのです」
その言葉を聞いた瞬間、何かがはじける音が聞こえた。
私の世界が変わった気がした。
──私は籠の中の鳥。
──でも、その籠を今、貴方が解き放ってくれた。
■テーマ:鳥かご
7/25/2023, 10:53:49 AM