ユソッ

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【あくねこ ラト―命が燃え尽きるまで―】

 今思えば出会いはほぼ奇跡見たいなものだったと思う、偶然やって来たただの人間が私達の主様になって、失いかけていた感情を取り戻させてくれた…取り戻させようとしてくれた、恐怖、驚き、悲しみ…様々な感情達を。私の主様になってくれてありがとうございます主様。
 そんな思いとは裏腹、空を舞う蝶の様な、はたまた命を狙う天使のようにその空を舞い、手にしている短剣で天使を壊す。砕けていく天使たちの欠片はまるで蝶を引き立たせる鱗粉の如く視界を彩る。その美しくも殺伐とした空気を割く笑い声が二人。一人はラト、とても楽しんでいるようで。もう一人は…知能天使、スローンの声。人の命を狙い戦う事に高揚しての笑い、強者と戦う事に興奮しての笑い、どちらもあるように思える。
 「ギャハハハハ!!!」
 その高笑いはとても不愉快だが、それはラトをますます昂らせた。
 「いいですね…!もっと聞かせてくださいッ」
 一気にスローンの下へ突っ込んでいく。だがもう限界であることがわかる。太刀筋がぶれているから。そんな事も気にせずラトは戦い続けるものだから主はとても心配しただろう。なんて無力なのだろう、どうして私は戦えないのだろう、と。
 スローンは天使を差し向け、時々自ら攻撃を仕掛けるだけなのだから、対して体力を消耗してはいない。圧倒的にスローンの方が優勢だ。もうやめて、戦わないでラト、そう思えどラトに届くわけもなく。スローンの攻撃はまるで空を割いて飛ぶ隼の様に真っ直ぐにラトへ伸び、考えるよりも先に咄嗟にその身を捩り横腹に攻撃を掠めてなんとか避けたラトだが体力があまり残っていない上に攻撃を掠めたので、宙を飛んでいた体はひらりと地上に引きつけられて行くのだった。ラトが落ちたそこには主が両手を広げて待っていた、途端に主は舞い降りたラトを抱きしめた。
「こんな傷だらけになって…」
「大したことはありません、戦わせてください?主様」
 真っ直ぐな瞳でそう言われたとて許可することはできなかった。すると何故か、空を埋め尽くしていた天使が消えていく、何故だろう?スローンはセラフィムによって召集をかけられ去ったのだそう、それにつられ天使たちも去った様で。
「心配だったんだから…ラト…もうこんな真似はやめて」
「ですが私は、愛すべき主様を、この命が燃え尽きるまで守り切ると決めたのですが…。」
「ありがとう、嬉しいけど…ラトが死ぬような真似は嫌。」
 この命が燃え尽きるまで守り切ると言われたのが少し嬉しかった主に呼応する様に、天は碧く晴れ渡った。

9/14/2024, 11:34:46 AM