Theme:本気の恋
生涯に愛する人は一人だけ。
生まれてまもなく実母から引き離されて育った私は、子どもの頃からそう言い聞かせられて育ってきた。
「あなたを愛し、あなたも生涯を共にしたいと思う人が必ず現れるから」
育ての親はことあるごとにそう言っていた。
ある日、私は彼女と出会った。
「運命だと思った」とは、後に彼女から聞いた言葉だ。
出会いから程なくして、私と彼女は一緒になった。
彼女は、天涯孤独の身だった。
内気な彼女は、友達もほとんどいなかった。
「あなたと暮らすことにしたのは、寂しかったからかもしれない」
彼女は私を抱きしめながら、不安そうにそう言う。
どんな理由でも構わなかった。私が本気で愛する人は彼女だけなのだから。
私の誘いで彼女は外に出るようになり、私を介して友人や知人もできた。
男友達もできた。彼女はその人と結婚した。
彼女が幸せでいるのが私にとっての幸せだから、私が一番でなくなっても構わなかった。
彼女は彼と家庭を持ち、子どもも二人生まれた。
私と彼女の関係は、それでも変わらなかった。
「あなたはいつも私に幸せをくれるね」と彼女は言う。
私こそ、彼女からたくさんの幸せを貰っている。
お互い様だよ、と私は言う。
これは恋ではないのかもしれない。
そもそも私と彼女との間に恋愛は成立しないと言う人も多くいる。
でも、私にとって、彼女は最愛の恋人であり、伴侶であり、愛する人だ。
生涯にたった一人だけの、私の愛する人。
私と彼女とでは時間の流れ方が違う。
私はベッドに横たわっていた。
涙ぐむ彼女とそれを支える彼女の夫が、私を見守っている。
「大好きだよ、出会ってから今までずっと。あなたと出逢えてよかった」
そう言って私の頭を優しく撫でてくれる。
私もだよ。
尻尾を振ってそう答えたが、泣いている彼女には見えただろうか。
生涯に愛する人は一人だけ。
そんな人に出会えた私は幸運だったと思う。
ずっとずっと先、彼女と再び会える日が来るまで待っているから。
だから泣かないでほしい。
虹の橋の畔で、待ってるから。
9/13/2023, 6:32:24 AM