せつか

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迷路のような街を走り抜ける。
ゴーストの群れを爪で切り裂き、彼女の元へとひた走る。大丈夫、彼女のそばには頼もしい味方がいる。自分一人なら、どうとでもなる。
――そう、例えば消滅してしまったとしても。

自分の役目は彼女の道を守ること。
彼女の行く道、彼女の来た道。その道が間違いでは無かったと、その生をもって証明すること。その為に自分の、私達の仮初の生はある。
敵を屠り、道を開き、彼女をあるべき未来へ送る。
その為にこの爪は、この歌は、この生はある。
逆に言えばそれ以外の生は自分には有り得ない。

背中に熱を感じた。
ゴーストの見えない手が触れたのだろう。
――ここまでか。いい。私の代わりはいくらでもいる。

「×××××!!」
突如伸びてきた小さな手。小さい、だが強い手が私に触れる。手袋越しに伝わるのは微かな熱。
「はしって」
ゴーストを振り切り、駆け抜ける。小さな手の主は私を振り仰ぎ一瞬厳しい顔をしてみせた。
「いこう。みんなまってる」
――待ってる。
私の生は彼女のために。それ以外の理由など有り得ない。それなのに……この小さな、だが強い手の主の微かな熱を、その言葉を、一瞬でも長く感じていたいと思う自分がいる。
初めての感覚に、私は言葉を無くしてただ走るしか出来なかった。


END


「手を繋ぐ」

12/10/2023, 4:49:41 AM