作家志望の高校生

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俺にはある悪癖があった。何でもかんでも後回しにして、土壇場になって焦りだす悪癖が。とはいえ、今まではなんとかなっていた。提出しなければならない課題だって、ギリギリではあったが間に合っていた。申し込み期限なんかもギリギリに終わらせていた。何とかなると、思っていた。
けれど、あの日、あの一回だけは、どうにもならなかった。後で言おう、まだ様子を見ようと先送りにし続けていた。元々の怠惰な性格に加えて、これを口に出してしまうことへの若干の怯えもあった。ずっと、言おう言おうと思い続けるだけで、行動できなかった。
この日のためにわざわざ買ったスーツをおろして、いつか2人で見た入道雲のように真っ白なネクタイを締める。普段日常ではあまり見ない色は、俺の喪失感を刺激するには十分だった。
会場に着いて祝儀を渡す。貧乏学生にはそれなりの金額ではあったが、自身の想いと決別するためにも惜しみなく包んだ。わざわざ銀行まで行って換えてきた新札は、普段見慣れたものより若干色が濃く見えた。
いよいよ、アイツが入場してきた。パートナーと腕を組んで、仲睦まじい様子で、よく磨かれた床の上を歩いてくる。真っ白な布に包まれて、心底愛おしそうな目で相手を見つめる視線に、ああ、本当に終わりなのだと思わざるを得なかった。今なら、泣いたって許されるだろう。精々、友達の結婚式で号泣する友人思いの人、程度の目しか向けられない。俺はもう、滲む視界を食い止める方法は持ち合わせていなかった。
アイツの相手は、アイツに相応しいだろう人だった。明るくて、愛嬌があって、少し不器用だけど一生懸命で。何より、俺と違って言葉を紡ぐ勇気があった。何もかも、俺とは真逆の存在。少し話しただけでいい人なのが伝わってきて、それがむしろ俺の心を傷付けた。
帰ってきて、引き出物の入った袋を床に投げ捨てる。行き場のない感情が胃の中で渦巻いて、俺は新品のスーツのままゴミ箱に頭を突っ込んだ。きっと、今の俺の顔は到底人には見せられない。涙も涎も鼻水も、吐瀉物さえ垂れ流した顔は恐らく酷い有様だろう。
こんなに苦しむくらいなら、さっさと言っておくんだった。関係が壊れるのを恐れて、先延ばしになんてするんじゃなかった。いっそ、はっきり断られた方がマシだった。これは、周りを皆等しく照らす太陽みたいなアイツに、友達以上の想いを抱いてしまった俺への天罰なのだろうか。
俺は盛大に嘔吐しながら、あの日言えなかった言葉たちも一緒にゴミ箱に吐き捨てた。

テーマ:言い出せなかった「」

9/4/2025, 6:10:07 PM