雨上がりの道はそこここに水溜まりをこさえて迂闊な人間を待ちかまえている。真っ白いスニーカーに派手な染みを作った私は恨めしい気持ちで横の連れを見上げた。
「なんでちっとも泥はねしてないの?」
「逆になんでそんなに泥はねするんだ」
心底呆れたような声にぐうの音も出ない。
「マモルが車道側歩いてくれないからじゃん。レディファーストって言葉知らないの?」
「平等主義なもんで」
口の減らないやつ。幼稚園以来の腐れ縁だけど、変わったのは背丈と声だけなんじゃないかってくらい、昔のままだ。
でもここのところ輪をかけてぶっきらぼうになった気がする。
「そういえばなんでいつも私の右側歩くの?」
マモルはちらっと視線を寄越し、さあな、とそっけなく呟いた。私は小石を蹴飛ばして勝手に続ける。
「私知ってるよ。男が右側を歩くのは利き手を空けておきたいから。無意識に女性を守ろうとしてるんだって」
「くだらね」
「あと人間の顔は左半分が優しくて右半分が凛々しいから、優しい方の顔を見せたいとか。あとね、利き手と反対側を歩かれると不快で意識しちゃうから、狙ってる男がいるなら左側を歩いて――あれ?」
話してるうちにわからなくなってきた。不快に思われたらだめじゃない?
首をひねっていると、いきなりやつが前に立ちふさがった。唇がぶつかるような距離でまじまじと見つめられて息が止まる。
「な、なに」
「いや、あんま凛々しくないなと思って」
どっちかっつーとマヌケ面。目のあいだ離れてるし。
呆気にとられる私をよそにさっさと行ってしまう。
その後頭部めがけ、勢いよくスニーカーを投げつけた。
(ずっと隣で)
迷走しすぎ。
3/15/2024, 2:22:38 PM