水上

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昨今の廃墟ブームで訪れる人が格段に増え、安全管理が厳しくなった。現在の所有者が誰なのかはっきりしないらしく、管理は役所で担っているからなおのこと。
とはいえその廃墟が、地域の集客に一役買っていることもあり、解体は免れたようだ。
ほんの数ヶ月前まではすすけた白い壁に、ひびと蔦が這っていた。今では草木は手入れされ、ひびの修繕まで施された。窓や鍵の壊れた扉からは侵入できないようにしっかり対策が講じられており、こうしてぼんやり外から眺めるのが精々だ。

かつての廃墟は、とても安全な場所に生まれ変わった。これなら余程のことがない限り誰も立ち入れないし、危険もないだろう。役所が安全管理や措置で叩かれる心配はなさそうだ。

ただ、こうまで手をかけて管理してしまうと、そこはもう廃墟じゃない。人がいた面影や空気を感じながら、その温度が過去になった世界は消えたも同然なのだ。日毎訪れる人の足は減り、伴って地域への経済効果も減少した。商店街や宿泊施設から、不満の声が上がるのも時間の問題だろう。


〉閉ざされた教会 / 22.6.8

6/8/2022, 1:14:27 PM