配送員A

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冷たい雨が降る
もう
そのうち乾くだろと
平気で濡れていられない季節になった
何しろ夜には気温が下がる
バイクは時速六十キロで走るから
歩いているときより十度は低い
風は容赦なく体温を奪っていく
指がかじかんで麻痺すれば
ハンドル操作を誤るかもしれない
私はゴソゴソとごわつくレインコートを着て
ばちばち雨粒に打たれる音を立てながら
雫を落としながら荷物を運ぶ
ああ
本格的な冬になったら
氷のような風に吹き曝されたこの顔は
まるで一枚の板のようになる
唇の感覚はなくなって
「お届け物です」と口に出すのも一苦労だ
温まろうと一粒のチョコレートを口に入れても
凍えた舌には溶かすだけの熱もない
日が暮れて夜になったら
濡れたアスファルトはイルミネーションの光を反射して
ちらちらと鬱陶しく光る
靴の中で足趾の細胞が紫色に壊死する感覚
ビルの間を吹き抜ける風は、ナイフのように頬を切る
冬が来る
冷たい雨が降る季節
軒下のふくら雀に、私は尋ねる
やあお前たち、裸足で寒くないかい
羽毛いっぱいに乾いた空気を含ませた雀たちは
笑って答える
人間さんこそ、この雨のなかをお仕事で、
雨宿りもできずにお寒いでしょう
ああ全くその通りだと私は笑った
確か去年の今頃にそんな会話をしたのだった
ああ
今年も冬が来る
冷たい雨が降る季節がやってくる

11/29/2022, 12:36:21 PM