二人だけの秘密
卒業証書を手に訪ねた部室は静かで、どこか殺風景に感じた。くだらないことで笑い合っていたこの場所は、今日から過去のものになる。なぜか距離感を覚えて壁に手を触れると、そこに染み込んだ景色のいくつもが思い浮かんでくる気がした。
「まったく、ガラクタばっかりね」
部室の奥から前部長が呆れた様子で言った。
「ほとんどは男子でしょ? 持ち込んだものはちゃんと持ち帰るように。寄付はなしってルールだからね」
いつもは騒がしい同期たちも、今日に限ってはしおらしい。なんだかんだ言いながらも、大人しく部室を片づける。そんな中、何人かが部室の机を見ていた。
「どした?」
「いや、新しそうな落書き。451ってなんだろうってさ」
視線の先には何かで削ったような痕があった。確かに451と読める。
「さあな。たしか、紙が燃える温度だったか」
きょとんとしている面子をおいて、俺はその場を離れる。視線を感じて目を向けると、前部長と目が合った。そっと視線を逸らす。互いに頬が緩むのを堪えているとわかった。
何してるの、と聞いたあいつの声が蘇る。451の傷を彫っていた時の視界と、肩に寄りかかるあいつの体温。二人の選手番号、41と11の積を刻んだあの日、子どもっぽいねと笑ったあいつの本心を知った。
部室の外、後輩たちの姿が見えた。それから、あの傷が繰り返し誰かの話題になることを思った。
「先輩! 思ったより嬉しそうですね」
「うるせーよ。そんなことより写真撮るぞ」
柄にもなくはしゃぎながら、今日という日がまだ残っていることが素直に嬉しかった。
5/3/2024, 7:14:24 PM