はた織

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 見慣れたものの中には、物陰に隠れて輝きを失うものもある。
 水の入ったコップも、必要な水分を補給できる道具であるが、ただそれだけしか利用されない。
 しかし、qpという写真家が撮ったコップは芸術品に昇華されている。彼は『喫茶店の水』という変態的な写真集を出した。喫茶店に置かれたコップだけの写真しかない。シンプルな被写体には、自然光に照らされた喫茶店の歴史の明暗が、ガラスに反映されている。
 たかが一杯の水、されど一杯の水。窓に差し込む日差しや店内の照明、観葉植物や家具、テーブルなど、あらゆるものが、小さなコップの水の中に映されている。さながら、宇宙を眺めているようだ。角度を変えて見れば、宇宙もその変化に合わせて数多の生命を輝かせる。
 写真は、撮影する前から何を撮ろうかと、目の前に映る多くの被写体を切り落とす。そして、目について残されたものをカメラに収めて、シャッターを切る。
 qp氏が、世界に多く溢れたものから喫茶店の一杯の水を選んでくれたおかげで、私はコップ一杯の輝きを芸術として楽しめるようになった。
                  (250217 輝き)

2/17/2025, 12:56:37 PM