海月クラゲ

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◤詭弁◢

あなたと一緒にいるためなら何を失ってもいいと思った。思っただけだった。

あなたとわたしの関係は、恋人でも友人でもない。しかし顔見知りと言うには親しい。お互いに興味のある観察対象、という言葉がピッタリな関係であった。

何時からだろう。この関係が変わり始めたのは。おそらく、初めて身体の関係を持ってしまった日だと思う。その日から、観察対象以上の感情が生まれた。彼は酷くモテて、それに私も当てられた。彼のためなら全て捧げられると思った。

その思いが自分の中で否定されるのに時間はかからなかった。

やっぱり嫌だと、自分の腕の中の書類を抱きしめた。どうしたって好きだったって、私の一番は研究だった。仕方ないのだ。サイエンティストだもの。

「何でも捧げるって言ったよね」
「ごめん、無理」

彼の失望の表情が脳に焼き付いた。


テーマ:あなたとわたし

11/7/2023, 1:15:53 PM