通り雨
ポツリ、と頭を刺す冷たい刺激。
見上げれば、曇天が広がっていた。
まるで今の気持ちを投影しているかのように、私を中心に雨雲が広がっているようで。なんだか無性に、泣きたくなった。
ザァザァと雨が降り注ぐ。雨音は段々と強くなって、けれど曇天は、私の頭上にだけ広がっている。少し行った先の空は淡い光が差し込んでいて、オレンジとグレーの濃淡が目に痛かった。
あぁ、少し行けば、光の元へ出られるのに。
私だけ、暗い世界に取り残されたみたい。
私だけ、みんなから置いてけぼりにされたみたい。
怖くて、泣きたくて、動けないでいる私は、ただ雨に打たれるばかり。けれど不思議と、涙は出なかった。泣いていたのかもしれない。でも気づかない。誰も、私ですら、頬を伝う雫が何なのか、わからないでいる。
皆が雨から、暗がりから逃げるように駆け足で横を通り抜けていく。
雨が、雨音が、弱まっていく。
パラパラと惜しむように体を叩いた雫。傷ついてもいない体を、冷えてしまった私の体を、暖かい光が包み込んでいく。そうして先程の雨が、ただの通り雨と知る。
皆、歩みを緩める。天を仰ぐ。ため息をつき、そしてまた、歩き出す。
光は差し込んだ。私の元にも。
どこへも行けなかった、私の元へも。
ひとつ、息をつく。前を向く。
私もまた、歩き始めた。
9/28/2023, 9:55:22 AM