夢を見る。
夏の景色だ。
ただ青く蒼い空にそびえる入道雲。肌を焼く太陽。生命の限り鳴き続ける蝉たち。
田舎の祖父の家を出て、じりじり焼けた坂道を駆け下って。
滅多に遮断機の下がらない踏切の手前、人の好いおばあさんがいる駄菓子屋のアイスを買って。
踏切の向こうの、煌めく海に向かって走っていた。
夢を見る。
子供の頃の景色だ。
今より色んなものが大きかった。色んなものが輝いて見えた。
虫取り網と虫かごを持って野原を駆け回って、捕まえた大きなカマキリを自慢して回った。
服も脱がずに海に飛び込んでも、上がればすぐに乾いてしまう。
その後帰って、洗濯をする祖母にお小言をもらっていた。
夢を見る。
君がまだ、手の届く場所にいた頃の夢だ。
いつも一緒にいた。何処へ行くにも二人だった。それが当たり前だった。
二人で走り回って、はしゃいで、遊んで、汗まみれになって、買ったアイスを半分ずつ食べた。
君は確かにそこにいた。
笑った顔も、悪戯が成功したときの顔も、やり返したときの顔も。
みんなみんな、覚えているのに。
(……夏、って。こんなに静かだったっけ。)
記憶の中の君の声が、蝉の声に掻き消されて霞んでいった。
[夏]
6/28/2024, 12:08:55 PM