侵食

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泥だらけの錆びたミニカーが、ようやくちぎれ落ちた後輪を寂しそうに見つめている。カーブミラーはとっくの昔に捻り取られたのだろうか、首根が削れて、そこに存在していたという証すらも消え去っている。赤色に美しく染め上げられたボディは、今ではほとんど、鉄の銀色に侵食されている。
「寂しいのか?」 と、まるで尋ねるかのように、鳩がそれを覗き込む。試しに啄んでみるが、もちろん何も反応はない上、余計に色は削れるばかりだ。太陽は沈みかけ、昨日より少しばかり濃い橙色が、彼らを揺らす。「いつからここにいるのだ。」 細い3本の指でミニカーを掴み、軽く揺する。コロコロと、機体の中から音が聞こえるのを感知した鳩は、先程よりも力を込めて持ち上げて、機体を遠くに投げてみた。遠くと言っても、鳩の背中の2倍ほどの距離でしかないが、ミニカーはゴロゴロと何度か回転して、最後にコロンと音を立てて止まった。出てきた。小さい何かが出てきた。
鳩は何が出てきたのかと、不思議そうにそれを睨み、そしてぺたぺたと足を進めた
それは、汚れも傷もない、真赤に染め上げられたカーブミラーだった。驚いた。ここまでの困難を、肉体から別れてまで、耐え抜いたというのだ。
沈みかけの太陽によって、紫色に染められた地平を背景に、2つの影が並ぶ。鳩は嬉しかった。そして、両の足で機体とカーブミラーを必死に掴み、そのまま空に飛んだ。天空の美しさを、見せてあげたかったのだ。「どうだい?これでもう寂しくないだろう。これからは友達になってあげてもいいぜ。」 鳩は得意げに大きく翼を広げ、しかしバサバサと必死に空を掻いた。太陽はようやく眠り、黒く染まった青空と優雅に飛び回る彼らだけが、美しい絵のように、世界の一面を埋める。夜が明けたらより一層、真赤に染まった君の美しさが、よく分かるだろう。
そして涙は、地平に取り残された後輪だけに預けられた。

2/6/2025, 2:44:02 PM